独自の視点で読み解く⑨
「寺山眼鏡店」
世界で1点だけのメガネを作るアトリエ兼ショップ「寺山眼鏡店(てらやまがんきょうてん)」が、尾道の本通り商店街に店を構えたのは2017年6月。取り扱うメガネは『自社で製作した商品だけ』という、全国でもあまり例を見ないスタイルです。カッティングや磨きなど全ての工程を手作業で行うため、大量生産では対応できないフレームデザインが最大の特徴です。購入後の再調整や再研磨などにも気軽に応じるなど、メンテナンスまで含めて一生お付き合いできる眼鏡店として、地元の人はもとより、観光客にも愛されています。
大阪出身の寺山洋平さん(42歳)が店主。大阪のメガネ店に勤め、店舗での販売を経験したのち、メガネの本場・福井県鯖江市で7年間、デザインや製作の修行を積む。独立開業を思い描く中で、奥さまのご実家への帰省途中に立ち寄った尾道の雰囲気と人の温かさにほれ込み、開業を即決意。地元の人はもちろん、今では多くの観光客も立ち寄る人気店です。
創業に至る人生のストーリーや商品のこだわりについて、広島ローカルタレントとして活躍中の中島尚樹・井上恵津子がインタビュー。メガネを試着しつつ、楽しくお話を伺いしました。
世界で1点だけのメガネを製作・販売する
こだわりのスタイルが人気!
- 中島さん 全国的にも珍しい業態のメガネ屋だと聞いたのですが。
- 寺山さん そうですね、通常のメガネ屋は、製造元からメガネを仕入れて販売するのが当たり前です。メーカーが制作したものを一切仕入れず、自分たちが作ったものしか販売しないお店は全国でもわずかです。
- 中島さん メーカーから仕入れないというのはこだわりですか?
- 寺山さん 仕入れたメガネだと分からない部分もありますし、アフターフォローの面でも製造元へ修理を依頼するなどしているうちに代金も高くなりがちです。でも、自分たちで作ったメガネは(そうした手間が不要なだけ)低価格でご提供できますよね。気に入って購入していただいたメガネをなるべく長く使ってもらえるように、このスタイルにこだわっています。
- 中島さん じゃあ、ちょっとメガネを見せていただけますか。井上さんに似合うメガネってどんな形がおすすめですか?
- 寺山さん 井上さんのお顔にしっくりくるメガネは多いと思います。これはいかがですか?
- 中島さん かわいい!! ばっちり似合っている。メガネに名前は付いていないのですか?
- 寺山さん 一つとして同じものがないので名前はありません。値段は28,000円と31,000円が中心の価格帯で、そこに8,000円プラスしていただけると、オーダーメイドで好きな形や色を選んでいただけます。特殊なカッティングを入れたり、凝ったデザインにしたりすると4万円を超えるものもあります。
- 中島さん オーダーメイドを頼まれる方も多いですか?
- 寺山さん メガネは洋服と違ってサイズ展開がないので、デザインが好きでもお顔に乗せると、「あれ?ちょっと何か変だな」みたいなことがよくあります。それはサイズが合っていないからです。サイズがピッタリ合っていて、その方の雰囲気とメガネがバランスよくマッチすれば、とてもしっくりきます。
- 井上さん 私もYouTubeに「メガネのサイズが合っていない」と書き込まれたことがあります笑。
- 寺山さん そうしたオーダーのほか、観光客の中には、完成品として展示してあるメガネで似合うものがあったら、フレームだけ買って帰られる方もいらっしゃいます。
- 中島さん そうなんですね。今、オーダーをお願いしたらどれくらい日数がかかるのですか?
- 寺山さん 2カ月ぐらいお待たせしています。これはある程度数量がまとまってから製造に入らないと効率が悪いのと、オーダーの場合は撮影した顔写真とイメージを重ねながらデザインをカスタマイズしていくので、どうしても時間がかかります。
高校時代からメガネの魅力にハマり、
尾道にほれて即開業!
- 中島さん 視力はどれぐらいですか?
- 寺山さん 2.0です。
- 井上さん めちゃくちゃいいですね笑、じゃーだてメガネなんだ。メガネの魅力に取りつかれたのはいつ頃からですか?
- 寺山さん 高校の時です。あまり勉強はできなかったのですが、ある日、だてメガネをかけて学校に行ったら、「賢そうに見える」と言われたのがきっかけです。メガネ一つで印象ががらりと変わるのが面白いなと感じ、そこからどんどんメガネにハマっていきました。
- 井上さん 今かけていらっしゃるメガネも本当にピッタリですね。
- 寺山さん ここに並ぶオリジナルメガネは、まず自分用に試作してから店頭に並べます。試作品は自分の顔や幅に合わせて作っているので、ピッタリ合っているのでしょう。
- 中島さん いつ創業されたのですか?
- 寺山さん 2017年6月です。その前は福井県の鯖江にいました。
- 中島さん 鯖江といえばメガネの聖地じゃないですか?
- 寺山さん そうですね。鯖江で7年ほど、メガネのデザインや製造の仕事をしていました。その前は、地元大阪のメガネ屋で働きました。
- 中島さん なぜ、尾道に来られたのですか?
- 寺山さん 私の妻が世羅の出身で、帰省前に尾道に立ち寄ったのがきっかけです。尾道が醸し出す雰囲気に一目ぼれでしたね。自分のお店をやりたいという思いはずっと抱いていたのですが、どこでやろうか…立地場所には悩んでいました。やはり知り合いの多い大阪でやった方がいいかなとも思ったのですが、人が多いのが僕はちょっと苦手で。そんな時に尾道に来たら、都会でもなく地方でもない人口密度のバランスがめちゃくちゃ良くって笑。しかも、人が温かい!地元の人間ではない私たちにも、壁をつくらずフランクに話しかけてくださいました。
- 中島さん ここだ!と思われたのですね。
- 寺山さん 1回来てすぐに、妻に「尾道で開業したい」と伝えました。そこから2年ぐらい、妻の実家でお世話になりつつ、お金をためて物件も探し、視力検査など販売に必要なスキルの勘を取り戻すために、メガネ屋にも勤めました。
知らない街、未知の業態での創業。
ご縁に助けられ開業にたどり着く。
- 中島さん とはいえ尾道で実際にお店を出すには、すごく勇気がいったのではないですか?
- 寺山さん 家族もいるので、かなり勇気が必要でした。尾道には誰も知り合いがいないですし、そもそもこういうスタイルのお店は前例がないので、融資もすごく苦戦しました。銀行の審査担当者の方とも「聞いたことがないから商売が成り立つのか分からない。本当に大丈夫か?」みたいなやり取りから始まり…説得するために何回も銀行に通いました。
- 井上さん それでも開業するという情熱はどこから?
- 寺山さん メガネの仕事しかしてこなかったし、私にはメガネしかないと信じていたからです。もし開業してダメなら「深夜バイトします」と宣言してまで家族を説得しました。
- 中島さん それで、審査は受かりましたか?
- 寺山さん なんとか通りました。想定よりもだいぶ少ない金額でしたが苦笑。
- 中島さん 審査の“おメガネにかなった”ということですね。メガネダジャレですが笑。自己資金の割合はどれぐらいですか?
- 寺山さん 半分くらいですね。メガネ専用の機械は鯖江でしか作られていないものもあり、それらは全部鯖江へ買い付けにいかないといけないので、資金は結構必要です。
- 中島さん 鯖江の知名度を生かす道もあったのでは?
- 寺山さん 鯖江で修業された人によくあるパターンは、鯖江に工場を立ち上げて自社ブランドとしてメガネを製造し、全国のメガネ屋へ販売するというものです。でもそのやり方では、実際に使っている人の顔が見えないのであまり楽しくないなと思って。ユーザーと直接やり取りをするには、自分で店を構えて販売し、なおかつそこで製造するしかないですよね。
- 中島さん そうなるとある程度、見込み客がいる場所でないといけないですね。
- 寺山さん 大阪だと人が多い分、接客がメインになって作る余裕がなくなるのではないかと不安に感じました。尾道はそういう面でもちょうどよかった!忙しすぎるのはちょっと困るので。
- 井上さん 尾道の中でもこの場所は最高ですね。
- 寺山さん いろんな不動産屋を回ってもなかなか見つからなかったのですが、たまたま妻の知人がこの商店街の関係者と知り合いだったのです。その方に「物件を探している」と相談したら、一発でここと巡り会えたのです。2年ぐらい探していて、相場も立地も頭に入っていたので“即決”でした。
- 井上さん 地元のコミュニティーがあるということですか?
- 寺山さん ご縁が大切だということですね。尾道で開業されている方に物件探しの話を聞くと、喫茶店で知り合ったおばちゃんに教えてもらったみたいな話は結構多いです。今では尾道での開業人気が高まってきて、そういう物件は少なくなってきたようなのですが。
- 中島さん 尾道がどんどん盛り上がっているのはラッキーですよね。
- 寺山さん それはすごくありがたいですね。尾道は本当に面白い街です。
決意を固めたら一歩を踏み出そう!
そこから流れができ、道が開ける。
- 中島さん 僕も創業したいと言い続けて、はや10年ですが、なかなか踏ん切りが付かないのです。創業したいと考えている方に向けてアドバイスをお願いします。
- 寺山さん 創業というと敷居が高いというか、ものすごく積み重ねてやるイメージが強かったので、私自身も一歩踏み出すために勇気が必要でした。でも、そこはもっと気軽に考えてもいいんじゃないかと思うのです。
- 中島さん 準備さえしっかりしていれば、そこまで悩まなくてもいいということですか?
- 寺山さん 私は、やろうと思って創業するまでにすごく時間がかかりましたが、振り返るともっと早くやっても良かったのかなとも感じます。ある程度、自分に自信が付くぐらい経験を積んだらできるだけ早く一歩を踏み出した方がいい。何か行動を起こすことで流れが出てくるものです。
- 井上さん 自分で流れをつくって、それに乗るということですか?
- 寺山さん 不動産屋を回ったり、補助金を調べたり、いろいろな窓口を探したり、その辺りから始めるのもいいかもしれません。自分が動くことによって、一気に開業のプランや流れが生まれてきます。動かないと何も始まりませんから。
- 中島さん お店が軌道に乗ったのは、開業後どのくらいたってからですか?
- 寺山さん フッと落ち着いたのは1年ぐらいたってからですね。
- 中島さん 結構早いですね。悩んでいる暇があったらまず動いてみることが大切ですね。動くことによってぐっと視界が広がる、メガネだけに笑。
- 井上さん メガネダジャレで締めくくりましょうか。今日はありがとうございました。
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